前回はイタリア語で廃止されたîの文字を紹介しました。今回は趣向を変えて,廃止されなかったが使用頻度が激減した文字を,ロシア語から紹介します。
硬音符のъね。ロシア語のアルファベットについてはこちらで学べます……って,実はъについては詳しく紹介していなかったのね。
前の子音字と後ろの母音字を分離する記号として使われています。
日本語のローマ字表記では「記念」と「禁煙」はkinenとkin’enのように「ん」の後にア行,ヤ行が続く場合はアポストロフィーを入れます。
わかりやすく言えば,それと同じね。
現在では分離記号としてほとんどお目にかからない単語ですが,1918年の正書法改革まではロシア語で最も頻繁に使われる文字のひとつでした。
分離記号以外の音価があったのですか?
「音価なし」を意味しました。例えば現在の正書法で語末が子音の単語には,このъが付いていました。現在では1文字だけの前置詞вやсも,当時はвъやсъと書かれていました。
無母音でも何らかの表記をしていたのね。そういえばこちらで旧正書法の綴りを紹介したわね。
元々はあいまい母音として音価を持っていたようで,現在でもブルガリア語ではъがよく使われ,あいまい母音を表すようです。
なぜ,ロシア語の表記では省略されたのですか?
文字を書く労力,および紙やインクの節約です。正書法改革当時は想定されていませんでしたが,現代では電子データの節約になりますね。
英語にも,発音しない文字があるわよ。
英語の場合は語源を残すためにあえて表記している場合があります。例えば秋という単語はautumnで,末尾のnは発音しません。しかし,形容詞のautumnalはnを発音します。
でもbomberはボンバーじゃなくてボマなのよね。
英語は伏魔殿ですよ。中にはエセ語源による黙字もあります。しかしロシア語のъは完全に無母音であるため,表記として残すメリットはほとんどなかったのでしょう。
正書法改革から100年,今も細々と使われているのには哀愁を感じるわね。
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