顕と潜（後編）

前回は理科の教科書の遺伝用語が「顕性」と「潜性」に変わったという話を，ミライ姐が説明してくれました。

「顕」と「潜」の字は初めて見ました。

私は物理屋なので，これらの文字にはなじみがあります。熱エネルギーを考えるときに「顕熱」と「潜熱」という用語を，設計の仕事でよく使っていました。

今度は熱ですか？

顕熱とは，見えている熱量です。例えば水を加熱して温度を25℃から40℃に上げるとすると，温度上昇の様子は温度計で知ることができますね。

温度計の数値が上がっていくはずです。

それでは0℃の氷を自然解凍して0℃の水に変えようとすると，温度計の数値はどうなりますか？

0℃のまま……変わらない？

そうですね。温度計の数値は変わりませんが，氷を溶かすために周りから熱を奪っています。この熱は温度計の変化としては見えませんが，実際に熱エネルギーとして関与しており，これを「潜熱」と呼びます。

物理の世界では古くから「顕熱」と「潜熱」という用語が使われていたのに，遺伝学では長く「優」と「劣」の字が使われていたのね。

遺伝上の「優性」は英語でdominantといい，本来は「支配的な」という意味です。一方で「劣性」はrecessiveといい，本来は「逆行の」という意味です。

「優性」「劣性」と訳すのは間違いではないのね。でも誤解しやすい用語だったのね。

用語の意味でつまずくことなく，勉強を進めてほしいですね。