こちらでは右と左にまつわる話をしましたが,世の中には右と左という単語が存在しない言語もあります。
なかなか想像ができません。
例えばメキシコのマヤ族のテネハパという村の言語や,オーストラリアのアボリジニのグーグ・イミディル族の言語には,右と左に相当する単語は存在しません。
彼らはどのように位置関係を表現しているのかしら。
テネハパの人たちは「のぼり」と「くだり」で識別するようです。山の斜面で暮らしているので,上下の区別は付くのでしょう。
電車の「のぼり」と「くだり」みたいですね。
電車は基本的に東京駅に近づく方向が「のぼり」で,東京駅から離れる方向が「くだり」です。
でも,北陸新幹線は東京方面が「のぼり」だけど,新幹線開業前の北陸本線は米原方面が「のぼり」で,直江津方面が「くだり」だったわよ。
昔は米原経由のほうが東京に近かったのです。金沢以東が第三セクターに移管された後も,北陸本線は金沢から米原に向かう方向が「のぼり」です。
グーグ・イミディル族の人たちはどのように位置関係を表しているのですか?
彼らは東西南北で区別しています。
右と左という単語がないと,どこに行っても方角や高低差を把握しなければならないのね。
右と左という単語を持つ言語は便利です。
中には東西南北が外来語という言語もありますが,地球上ではどこでも太陽は東から登り,西に沈みますから,方角は世界共通の概念でしょう。ところで,右と左という単語は,方向以外の意味を持つことがあります。
英語で右はrightだけど,他にも「権利」や「正しい」の意味があるわね。左のleftはleaveの過去分詞でもあるわね。
日本では左のほうが優位とされていました。例えば左大臣は右大臣よりも高位となります。
雛人形でも左大臣は老人だけど,右大臣は若者よね。この左右とはお内裏様,つまり天皇から見た左右だから,正面から見ると左右逆になるわね。向かって左が右大臣,向かって右が左大臣ね。
現在では男雛が向かって左,女雛が向かって右ですが,本人たちから見ると男雛が右,女雛が左ですね。これは近代以降の西洋的価値観に基づく並び方です。正面から見ると右が男雛,左が女雛となるのが伝統的な飾り方で,現在でも京都ではこのように飾るそうですね。
雛人形で遊ぶと,戻す位置を間違えてよく怒られます。
お人形は大切にしないとダメよ。
私は首を取って遊んでいましたが……それはともかく,西洋では逆に右のほうが優位とされています。
そもそも「右」と「正しい」が同じ単語ですものね。
この文化は西洋発祥の人工言語にも影響しています。有名な人工言語であるエスペラント語では,反対語はmal-という接頭辞を付けて造語します。
まさか,右にmal-を付けたら左になるのですか?
そのとおりです。「右の」を表すエスペラント語の形容詞はdekstraですが,「左の」を表す形容詞はmaldekstraとなります。
エスペラント語なら覚えることが少なさそうだなあ。日本語だと,漢字の書き順もうるさく言われるし。
ちなみに「右」の第1画目は斜め払い,「左」の第1画目は横棒です。
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