はじめに

2025年2月は28日かけてタイ文字の記事を投稿します。

第4週はタイ文字学習の仕上げと発展事項を学びます。

第4週の第5回はレアなタイ文字に目を通し,タイ文字とデーヴァナーガリー文字,ラオス文字との関連を学びます。

そこまで学ぶ必要があるのですか?

基本的に不要です。しかし,タイ文字を深く理解するには知っておくと便利な知識です。

というわけで,本日は興味のある方だけ受講ください。
レアなタイ文字・全6文字

これまでに出てこなかった残りのレアなタイ文字を紹介します。
レア文字 | スタメン同音字 | 頭子音/末子音 | 子音種類 | 単語例 |
---|---|---|---|---|
ฏ | ต | t-/-t | 中子音字 | |
ฐ | ถ | th-/-t | 高子音字 | ฐาน(thǎan/土台) |
ฑ | ท | th-/-t | 低子音字 | |
ฒ | ท | th-/-t | 低子音字 | |
ฌ | ช | ch-/-t | 低子音字 | |
ฆ | ค | kh-/t | 低子音字 | เมฆ(mêek/雲) |

語例として紹介した単語は,初級レベル終盤でようやくお目にかかるかもしれない程度の頻度です。

このような文字もあるという認識だけ持っていればいいのですね。これでタイ文字42文字制覇です。
廃止されたタイ文字・全2文字

実は他にも廃止された文字が2文字あります。現代では原則として使用しないのですが,タイ文字のリストに掲載されている場合があります。
廃字 | スタメン同音字 | 頭子音 | 子音種類 |
---|---|---|---|
ฃ | ข | kh- | 高子音字 |
ฅ | ค | kh- | 低子音字 |

日本の小学校の国語の教科書の五十音図に「ゐ」「ゑ」は載ってないわよ。

迷惑ですが仕方ありません。日本で出版されているタイ文字の学習書でも,タイ文字の数については「廃字を除き42文字」のように廃字について何かしら言及しています。

なぜ廃字になったのですか?

タイプライターを導入した際に,キーの数が足りなかったためです。同音のスタメン文字に置き換わり,現在に至ります。

それもまた理不尽です。
デーヴァナーガリー文字とタイ文字

タイ文字の直接の起源はカンボジアで使われているクメール文字ですが,インド系の文字に遡ることができます。最も有名なデーヴァナーガリー文字は,現代ではヒンディー語やネパール語などの表記に用いられていますが,インドの古典語であるサンスクリット語やパーリ語も,デーヴァナーガリー文字で書き表すことがあります。

ことがあります……って,デーヴァナーガリー文字じゃない場合もあるの?

元々サンスクリット語やパーリ語には文字がなく,様々な文字を借用していたようです。日本でも寺院や墓地などで見ることのある梵字は,サンスクリット語を表記したもので,デーヴァナーガリー文字と似ていますが別の文字です。ちなみに,タイは仏教国であり,サンスクリット語やパーリ語の経典をタイ文字でも音写していたこともあります。

なるほど。

タイ文字を学ぶ場合,デーヴァナーガリー文字までマスターする必要はありませんが,タイ文字とデーヴァナーガリー文字は対応しているので,サンスクリット語などでの発音と,タイ語での発音の比較を把握しておくと理解が深まります。

タイ文字には同じ音でも複数の文字がありました。これらはサンスクリット語などで区別していた発音なのですね。

全部見ると大変ですから,タイ語のth-とs-の発音を見てみましょう。残りは一覧表にして,次回提示します。
まずはタイ語のth-の発音です。タイ文字は6種類ありました。
タイ文字 | 子音種類 | デーヴァナーガリー文字 | サンスクリット語音 |
---|---|---|---|
ถ | 高子音字 | थ | th-(無声・有気・歯茎音) |
ฐ | 高子音字 | ठ | ṭh-(無声・有気・反舌音) |
ท | 低子音字 | द | d-(有声・無気・歯茎音) |
ธ | 低子音字 | ध | dh-(有声・有気・歯茎音) |
ฑ | 低子音字 | ड | ḍ-(有声・無気・反舌音) |
ฒ | 低子音字 | ढ | ḍh-(有声・有気・反舌音) |

タイ語では6つの発音が全てth-(無声・有気・歯茎音)に統合されたのね。

次にs-の発音を見ましょう。タイ文字は4種類ありました。
タイ文字 | 子音種類 | デーヴァナーガリー文字 | サンスクリット語音 |
---|---|---|---|
ส | 高子音字 | स | s-(歯茎音) |
ศ | 高子音字 | श | ś-(硬口蓋音) |
ษ | 高子音字 | ष | ṣ-(そり舌音) |
ซ | 低子音字 | なし | なし |

デーヴァナーガリー文字と対応していない文字もあるのですね。

そもそもซ(s-)はช(ch-)に曲げを加えた文字で,この2つの文字は仲間として扱われます。次のラオス語の項で取り上げます。
タイ文字とラオス文字

タイの隣国ラオスでは,タイ語と同系統のラオス語が話されています。私はラオス語を学んだことはありませんが,調べてみると共通日本語と関西弁程度の違いでイメージしても差し支えないと思います。

関西弁はアクセントが複雑だけど,ラオス語もそうなのかな?

タイ語もラオス語も,声調はmid, low, fall, high, riseの5種類ですが,同じ単語でも声調が異なることがあります。

共通日本語と関西弁程度の違いとしても,イメージとしては合っているわね。

ラオス文字は丸くてかわいい形をしています。一部を除き,タイ語と対応しています。

あたしが中高生の頃,丸文字を書いている女子がいたわ。

そんなイメージの丸くてかわいい文字です。さて,タイ文字とラオス文字の最大の違いですが,ラオス文字にはスタメンしかありません。高子音字と低子音字の区別はありますが,1音1文字に対応します。

タイ文字のように同音でも複数の綴り候補が発生することはないのね。語源を知るのは難しいけど,発音と表記を結びつけるのは簡単そうね。

ちなみに,ラオス語にはch-の発音がないため,高低とも2文字が存在せず,タイ文字のช(ch-)に相当するຊが,ラオス語ではs-の音を表します。また,タイ語にないຍ(ny-)の音が存在し,低子音字として1文字存在しています。ですから全部で27文字です。

日本語の「ニャ行」の音に近いのかな?

そうですね。タイ文字ではญに相当します。タイ語では硬口蓋・接近音ですが,サンスクリット語とラオス語は硬口蓋・鼻音であり,サンスクリット語では一般にñ-とローマ字表記します。

タイ語のญが頭子音y-に対して,末子音が-nなのは,サンスクリット語の影響なのね。

理解が深まります。

次回講義にて,タイ文字,ラオス文字,デーヴァナーガリー文字を含めた一覧表をご覧いただきましょう。

いよいよ総まとめね。
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