漢詩は広東語で

前回は漢文と中国語の違いについて学びました。

書き言葉と話し言葉が著しく異なるのよね。

漢文の漢字をそのまま中国語読みしても，基本的には通じないのですよね。

詩歌の場合も意味が通じるとは限りません。しかし，言葉の美しさを味わうために音読するのはよいことです。

漢文は書き言葉だったけど，詩歌の場合は昔の人も音読したのよね。当時の中国語がどんな発音だったか，知られているの？

文献などからある程度推定されているようです。基本的には現代標準中国語とは似ても似つかない発音です。そのため，古代の発音の特徴を残しているとされる広東語などの発音で，漢詩を読むことも人気があります。

動画サイトなどで検索すれば，古代中国語音などでの朗唱も聞けますね。

今回は李白の『早発白帝城』を現代標準中国語と広東語で読んでみましょう。文字で書くとこうなります。

あしたに　じす　はくてい　さいうんの　かん
せんりの　こうりょう　いちにちにして　かえる
りょうがんの　えんせい　ないて　やまざるに
けいしゅう　すでに　すぐ　ばんちょうの　やま

まずは標準中国語の発音です。

チャオ　ツー　パイ　ティー　ツァイ　ユン　チエン
チエン　リー　チャン　リン　イー　リー　ホワン
リャン　アン　ユエン　ション　ティー　プー　チュー
チン　チョウ　イー　グオー　ワン　チョン　シャン

次に広東語の発音です。ローマ字表記はイェール式としますが，声調を数字で表したものと，アクセント記号で表したもの，両方を紹介します。後者の場合，母音の後のhは低い音を表すために付加する文字です。

チーウ　チー　パーッ　タイ　チョーイ　ワン　カーン
チーン　レイ　コーン　リン　ヤッ　ヤッ　ワーン
レーン　ゴーン　ユーン　セン　タイ　パッ　チュイー
へン　ツァウ　イー　グオー　マーン　チュン　サーン

イメージが全く異なるわね。確か，漢詩には押韻があったと思うけど，どこになるの？

1行目，3行目，4行目の末尾の文字で押韻しています。日本語で間（カン），還（カン），山（サン）ですね。広東語の声調は，1声と4声が同じ韻のグループになります。

日本語の音読みは，同じ「アン」の音ですね。

現代標準中国語だと間/jiān，還/huán，山/shānのローマ字の見た目では-anが共通だけど，発音は異なるのよね。

ローマ字表記は同じでもjiānはチエン，huánはホワン，shānはシャンとなって，耳で聞くと全然イメージが違います。

広東語だと，間/gaan¹，還/waan⁴，山/saan¹はローマ字の見た目も，耳で聞くイメージも，カーン，ワーン，サーンで似ているわね。

香港返還から20年以上を経て，現代標準中国語の侵食が甚だしいことと思います。古代の文化を継承するという意味では，日本人も広東語に親しみ，広東語で漢詩を鑑賞する機会が増えるといいですね。