アルド
私は世界中の言語に興味がありますが,変わった経緯で単語が輸出されることもあります。
塾生
珍しい外来語の話ですか?
アルド
今回は英語のkismet(宿命)という言葉を取り上げましょう。
ミライ姐
キスメッ……あまり見ない単語ね。運命という意味ならdestiny, doom, fate, foutune, lotなどの単語もあるわね。
アルド
このkismetという単語は,オスマン帝国時代のトルコ語から英語に入った単語です。現代のトルコ語ではkısmetと綴ります。
塾生
点がない。
アルド
トルコ語では点があるiは「イ」の音を,点がないıは日本語の「ウ」の音を表します。例えばトルコ最大の都市イスタンブールはİstanbulと表記します。先程のkısmetはクスメッのように発音するのですね。
塾生
大文字にも点がある!
ミライ姐
トルコ語のkısmetはどんな意味だったの?
アルド
元はアラビア語のقسمة(キスマ)という単語です。イスラム教の聖典コーランでは「分配」という意味で使われています。宿命や運命という意味は,後世になって使われるようになったようです。
ミライ姐
神から分配されたもの……だから運命なのかしら?
アルド
おそらくそうでしょう。ちなみにアラビア文字は右から左に読みますが,قسمةの一番左にあるةは女性名詞を表す文字です。書かれている通りであれば「キスマ」ではなく「キスマトゥン」と読みますが,実際には語尾のトゥンはほとんど聞こえません。
ミライ姐
トルコ語のkısmetの末尾のtは,女性名詞を表す標識が残ったものなのね。
アルド
ちなみにアラビア語のقسمةには数学用語として「割り算」の意味もあります。そのため私は割り算をする度に,頭の中に「宿命」の文字が浮かびます。
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