家の片付けをしていたら,貴重な文献が出土しました。祖父の軍隊手蝶です。
どんなことが書いてあるの?
軍隊での履歴が様々と書かれています。痔で入院したことまで書かれていて,意外と面白いのですよね。
軍人の掟みたいなものも書かれているのですか?
軍人勅諭(ちょくゆ)といいます。「勅」は天皇に関する事物につける言葉で,「諭」は言い聞かせることを意味します。要するに,天皇陛下のお言葉ですね。2700文字ほどありますが,陸軍では全文を暗誦することが求められたそうです。
「諭す」は「さとす」と読みます。
祖父の軍人手蝶には明治天皇,大正天皇,昭和天皇の勅諭が掲載されていました。
代替わりの度に新たな勅諭が出されたのね。
それでは軍人手蝶の1ページ目に掲載されている,明治天皇の勅諭の冒頭を読んでみましょう。
……不思議ね。漢字は大体読めるけど,ひらがなと思われる文字が読めないのよ。こんな経験は初めてね。
これは変体仮名(へんたいがな)と呼びます。異体字のことですね。1900(明治33)年に小学校で教えられるカナの字体が1つに統一されたのですが,それまでは1つの音に複数の文字が使われていました。
一部は現代でも看板などで使われる場合があるわね。花札にも書いてあったかしら。変体仮名と普通のカナの使い分けはあるの?
厳密な使い分けはなかったようですが,単語によって特定の変体仮名が使われたり,同じ文字の連続を避けるために別の字体を使うことがあったようです。なお,1948(昭和23)年の戸籍法施行までは変体仮名での名付けも可能でした。
なぜ,多くの変体仮名が生まれたのですか?
日本には文字がなく,漢字の音を借りて表記していました。万葉集などがそうですね。この時点ですでに,1つの音に対して複数の漢字を使っていました。
元々文字がなかったから,人によって表記も異なったのね。
平安時代になり,漢字の草書体などからひらがなが自然発生的に作られていきました。
これは私の妄想ですが,古代の文字の多くが石や骨に刻まれていた中で,ひらがなは最初から毛筆で書かれた文字であったため,気軽に複数の文字を使えたのではと考えています。
確かに,石などに刻む場合は失敗すると大変だから,文字数を絞りたくなりますね。
逆に紙にペンなどで書くようになると,筆記体が発達します。例えばヘブライ文字の筆記体は,活字とは似ても似つかない字形をしています。
紙に書くと,文字は進化するのかな?
面白いわね。ところで,変体仮名は全部で何文字あるの?
住民基本台帳では,戸籍法施行前に変体仮名で命名された名前を表記できるよう,168字の変体仮名を定めていました。最近ではUnicodeで286字の変体仮名が登録されたようですが,私の技術力では表示できません。
現代でも使われているひらがなが「ゐ」「ゑ」を含めて48字だから,変体仮名を全部含めると300字は確実に超えるわね。
1音1文字に統一されて便利にはなりましたが,書道などでは今でも使われます。よく使う変体仮名については知っておきたいですね。
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